強迫行動
強迫行動とは、たとえば手が赤切れしていても何度も手を洗わないと気が済まず、家を出るとき遅刻するのに鍵がしまったかを何度も確認をしないではおれない、きちんと並べないと気が済まない、という思考や感情に縛られた行動のことです。抜毛や爪噛みなどもこの仲間に入ります。本人はそうした行動が不合理だと分かっているのにやめられず、生活に支障をきたし苦痛を感じています。
従来、強迫性障害の治療に効果があるとして用いられてきた心理療法は認知行動療法の一種の暴露療法というものでした。暴露療法というのは安全な状況で不安や強迫観念のもとになる刺激を段階的に強くしながら触れさせる(暴露させる)治療法で、これによって不安や強迫観念を取り除いていきます。
これに対してACTでは不安や強迫観念を取り除くことに主眼を置きません。むしろ不安や強迫的な考えが起こるのは普通のこと、病気ではなく誰もが体験するごく当たり前のことと考えます。そしてクライアントには不安や強迫的な考えを冷静に観察してもらいます。そうすると、強迫行動の元になっていた思考や感覚/感情が、どうしても取り除かなければならない悪質なものではないことが分かり、それが現れてもやがて自然に消えてゆくものであることが分かってきます。こうしてかつてそれをせずにはおれなかった強迫行動の必要感が薄れて行くのです。
強迫行動で自由な思いをしている方は次の質問をじっくり考えてみると良いでしょう。
Q 長い時間をかけて不安や強迫観念をコントロールする努力は報われたでしょうか?
Q この努力で不安や強迫観念は少しでも軽減した実感はありましたか?
Q 不安や強迫観念を取り除く努力はあなたの生活の質を高め、より自由でより満足できる生活を生みましたか?
この質問に「はい」と答えられたならば、その努力を続けることが正解です。しかし「いいえ」としか答えられなかったのならば、ACTを試してみてはいかがでしょうか。
「押してもだめなら、引いてみろ。」ACTはこれまで嫌って押しやって来た思考や感情を、逆に引き入れてみるやり方です。
「引き入れるなんてとんでもない!」と思われる方へ。もし「今から24時間の間だけ、強迫行動をやめることができたら10万円差し上げます。」と言われたら、どうですか。24時間だけなら頑張るのではないでしょうか。なにも「不安にならなければ」とか「強迫的な考えを思い浮かべなければ」と言っているのではなく、「行動」しなければということなのですから、できないことはないでしょう。
このことが意味しているのは、「行動」と「思考/感情」は別物だということです。強迫症に悩んでいる人には、「行動」と「思考/感情」が同時に起こっているように感じられるのですが、ACTを始めると、これを分けて考えられるようになります。ACTの基本的な考え方は、「思考も感情も自動的に湧いてくるのでコントロールできないが、行動は意志でコントロールできる」です。
「押してもだめなら引いてみな」を試してみませんか。「なんだ、こんなことで解決するのか。」という体験ができるかもしれません。
どのような人がACTを試したらよいか
従来の暴露療法にも効果があります。これまでどんな暴露療法も効果がなかったという方にはACTを試す価値があるでしょう。
※この説明は国際強迫症基金のMichael Twohig博士のエッセーを参考にしています。