アルコール依存
唯一の合理的解決
苦痛をそのままにしてやり過ごし
価値ある行動をする
引き金 自分の外にある引き金
自分の内にある引き金
口 実 飲むための理由づけ
お酒を飲むと何が起こるか
まず、お酒を飲むと何が起こるのかを知りましょう。次の8つの症状が出ます。
① 酔うまでの量が増える(酒に強くなる)。
② 身体に悪いと知っていても飲まずにはおれない。
③ 続けて何倍も飲むようになる。
④ 「これくらいで止めよう」と思ってもつい飲み過ぎてしまう。
⑤ お酒が抜けると気分が滅入り、飲まないと不安になる。
⑥ お酒のためなら時間や労力を使っても買いに行く。
⑦ お酒以外の趣味や娯楽が減り、人付き合いも減る。
⑧ お酒のせいで仕事や生活に支障をきたす。
あなたには身に覚えがありますか。これらは性格が弱いからではなく、脳がお酒なしには快感を得られなくなるように変化するからです。
最初の一歩
回復の過程は幾度もの失敗(再飲酒)の積み重ねです。失敗はしないに越したことはありませんが、実際には再飲酒に至る人の割合は高いのです。しかしながら失敗の経験は次のチャレンジに役立つというのも事実です。問題は、再飲酒すると罪悪感で苦しくなり連続飲酒の衝動に駆られるということです。この衝動をどう克服するが重要な決め手になります。ですから、まずすべきことは、失敗しても立ち戻ることのできる心の居場所(心の安全基地)を持つことです。AAはこの秘訣を伝えています。
AAとは何か
AA(アルコール・アノニマス)とは世界的な断酒の自助組織のことで、仲間と励まし合いながら断酒を続け生きがいのある人生を目指します。その12のステップはアルコールからの回復のために非常に有効であることが実証されています。AAは宗教的な組織ではありませんが、自分を超えた存在(神)と隣人との関係の中で回復を実現してきました。そのプロセスは大別すると次のようなものです。
① 自分の弱さを認め超越的な存在(神)に自分をゆだねる
② 自分の過ちを悔い改め、超越的な存在と隣人に赦しを求める
③ 超越的存在との直接的な関係を深め、仲間のアルコール依存者を助ける
ここで最も重要なことは、心の中に何度失敗してもそれを赦してくれる場所、クリーンな自分に立ち戻ることのできる場所(心の安全基地)を持つことです。当相談室ではそういう心の場所を作るための瞑想をお教えしております。
回復への道
1. 何が問題の根っこかを見極める
何が問題化はいろいろと考え着くでしょうが本当の問題は一つしかありません。
例えば、会社で社長に叱られた。その暗い気持ちでは家族団らんにはならない。よし、少しお酒を飲んで気分を上げてから家に帰ろう。そうすれば一時的には気分が良くなります。ところが家にたどり着いたときは、ぐてんぐてんで家族団らんどころではなくなっていた。次に来るのは自己嫌悪! 社長に叱られただけでなく、自分で自分を駄目にした。
ここには三つの法則があります。
法則1 苦痛を無くすことはできない
法則2 苦痛を無くそうとするのは普通のこと
法則3 無くせない苦痛を無くそうとすると苦痛が大きくなる
何が問題の根か? それは無くせないものを無くそうとして、もがけばもがくほど悪化するということです。
ではどうすればいいのか? 合理的な解決法は、苦痛をそのままにしてやり過ごし、価値ある行動をするということになります。以下のその方法を述べます。
2. 引き金を知り対処法を身に着ける
お酒を飲みたいという渇望が生まれるとき何が引き金になるかのリストを作る
自分の外にある引き金としては、次のようなものがあります。CMや広告、給料日、夜の繁華街、飲み友達、空き缶、暑い日、寒い日、ひまなとき、タバコを吸っているとき、眠れないとき。
自分の中にある引き金としては、寂しさ、ストレス、疲労、イライラ、うつ、不安、緊張、退屈、恥、一段落した感覚・・・などがあります。
引き金はそれを避けることができればそれでも良いでしょうが、いつも避けられるとは限りません。その時には「やり過ごし」が役に立ちます。やり過ごしは我慢ではありません。(我慢をするとリバウンドが起こり悪化させますから注意してください。)やり過ごしは飲みたいという渇望とその強度を観察し、それを体の中に感じながら、そのままにしておくスキルです。ACTではアクセプタンスという心理過程を習得するスキルをご紹介しています。
3. 口実をリストアップする
お酒を口にするとき、人は自分や他人に理由づけをしています。どういうことを言っていますか。他人には「そんなに飲んでいない。」、「酔っぱらっていない。」、「もう飲まない。」、自分には「いっぱいぐらいならいい。」、「そんなに深刻じゃない。」、「困ってない。」、「周りが大げさなだけだ。」他にも、「人付き合いは大切だ。」とか「相談されたのだから仕方ない。」、「誘いを断わるのは相手に悪い。」、などなど。これらの口実(理由づけ)にとらわれないようにする心理過程を脱フュージョンと言い、そのスキルを身に着ける第一歩が口実のリストアップです。
4. 「今がその時」に気づき対処する
初めのうちは、引き金や口実に気づかなかったり、気づいても余裕をもって対処することができなかったりします。そのためには普段から気づきと、自分への距離置きの練習をする必要があります。
時間は過去、現在、未来の順に流れていると思い込んでいますが、実際に存在するのは現在だけで、過去も未来も頭の中にある記憶や予測でしかありません。現代人は普段、過去や未来に思いを馳せていることが多く、「現在」に気づいていることが非常に少なくなっています。過去や未来に思いが向いているときにはパターンでものを考えているので、新しいことを学ぶことができません。従って飲酒のパターンも変えられないのです。このパターンを変えるには「現在」に接する柔軟性を訓練する必要があります。
自分への距離置きは、目に見える現実だけではなく、高い視点で普段は目に入らない全体を俯瞰できる想像力を養うことで可能になります。先に述べた超越的存在からの慈しみに生かされている心の安全基地にとどまる練習をすることで、「今がその時」という瞬間に対処する力がついてきます。
5. 価値を明確にする
飲酒の渇望は非常に強くその苦しさには想像を絶するものがあります。それに立ち向かっていく人は、はた目には分からない英雄的な戦いをしているのです。その戦いを戦い抜くためには、その苦しみを経てでも向かって行きたいと思う価値がなければなりません。
価値についてよく誤解されるのは、それを人生の目標と同じだと考えてしまうことです。価値は方向性であって目標(ゴール)ではありません。
例えば、結婚はゴールであっても価値ではありません。この場合「配偶者を愛する」が価値になります。受験合格はゴールです。価値は「学ぶ」ということです。
こうした違いを理解し自分固有の価値を明確にすることが、苦痛に耐え人生に活力を得る力になります。
6. 行動計画を立てる
毎日の生活の中で飲酒に至りやすい時間や場所、きっかけなどを特定し、具体的にどのように行動するかの計画を立て、シミュレーションやロールプレイで練習し、実地を行います。
行動計画は次の内容を網羅する必要があります。
① 価値の明確化(例:良き夫、良き父である)
② 目標の設定(例:家族に笑顔で接する。冠婚葬祭でお酒を断る。)
③ 「いつ、どこで、誰と、どのように」を具体的に計画し、結果を測定できるようにしておく
④ 上の①~③を網羅した行動計画を文書化し、他人に対して宣言する
⑤ 自分を励ます言葉(例:千里の道も一歩から)
⑥ 妨げとなるバリア(思考、感情、感覚、衝動、外的条件など)を予め特定する
⑦ 挫折に備える
再飲酒の瞬間、あなたは分かれ道に立たされます。失敗の苦痛を紛らわすために連続飲酒に至るか、その苦痛を持ちながら失敗から学ぶかの選択です。あらかじめその苦痛を想像し、学びのチャンスを選択する練習をしておきましょう。
おわりに
アルコール依存と戦う人は英雄です。なぜならお酒への衝動と苦痛に立ち向かい人生をかけて戦う人たちだからです。この人たちは一瞬一瞬を真剣に生きなければなりません。しかしそこには生きる活力を感じる充実感もあることでしょう。人生の意味をそこに発見する人もいます。そのような人生が与えられたことを感謝できる日があなたに訪れますように。周囲の者もこの人々に対する尊敬と畏怖をもって接することができますように。
※部分的にアルコール集団精神療法RELIFE-A2(Restart and Enhance Life Intervention For Every person with Alcohol Addiction)「新しい生活を始めるためのリライフ・プログラム」を参考にしています。sites.google.com/view/iwanolab/情報公開/各種資料公開/